代表取締役の松下卯蔵様にお話を伺いました。
自社工場で製造した惣菜を問屋やスーパーで売る製造部門と、自社商品や和菓子など他社の商品と併せて小売店に卸す卸部門があります。自社商品はその日作ったものを夜中に走る「市場便」に乗せ、関東から九州まで市場の「競り」に間に合うよう届けます。卸部門では、昔は商品を運んで売り場に並べるのが仕事でした。今は、佃煮や惣菜以外にも地元の和菓子メーカーと小売店を結びつけることが中心になっています。定番商品ではなく、季節のお菓子や大垣特産のもの、お店独自の細かな要望の商品など、我々は大手さんがやれないところを開拓し、提案をしています。
金時豆と焼き鳥を主力商品にしています。豆は北海道産の大正金時豆を使用しています。天然のものですから、天候や収穫後の期間によって豆の水分量が違います。そのムラを職人さんの技で縮めて、ふっくら仕上げています。機械ではなく「人が作る」ことを大事にしています。また焼き鳥は、九州産でぼんじりという脂身の多い尻尾を使用しています。当社の商品は早くても翌日しか食べていただけないので、やわらかさを保つために脂身の多いこの部分を使っています。自社で炊いたオリジナルのまろやかなタレがたっぷりついているのも自慢ですね。
金時豆ですと、今は薄甘が流行っていますが、当社は昔ながらの濃甘です。お客様もときには、辛いものや甘いものが食べたくなることもあります。パイは小さいかも知れませんが、そういったお客様をターゲットにしています。それから、焼き鳥のタレもですが、味というのは地域の消費文化で、真似ができないものだと思っています。ですから、よその土地の味を真似するのではなく、当社の味で買っていただけるところにお届けしたいと思っています。
品質管理に力を入れています。若いころ修行をした他社の「モデル工場」では、お客様に製造工程を見せる取り組みを行っていました。当社の工場を建てる際、その経験を活かしてドアや壁をガラスにして外部からも見えるように設計し、品質管理室も新設しました。品質管理の人には権限を与えて「社長が売れと言っても、品質がおかしいと思ったら絶対に出さない」と指示を徹底しています。あと、社内外のクレームは全部回覧してオープンにしています。隠す体質が問題の原因にもなりますから、なにかあったらすぐに社長のところまで報告が来るようにしています。
33歳で社長になったとき、幹部は年上ばかりでした。1対1で話し合い、お互いを理解し合うために個人面談を始めました。以来、今でも月2回1時間かけ話し合い、議事録もわたしが書いて共有しています。30分30分くらいの割合で、一方的にわたしがしゃべらないように現場の意見も聞き、わたしの考えも伝えています。現場主義が大原則ですが、ときには現場が走りすぎてしまうと目先の価値判断だけになることもありますので、一歩下がった立場からわたしの意見を伝えています。最初はいやがれましたが、今では社員の方から「個人面談の時間ですよ」なんて言われます。
今後の商売としては、当社の商品をまだご存知でない全国のお客様に食べていただきたい。このことを地道にやっていきたいです。流行を追ってあれやろうとかこれやろうというよりも、食品を作る、卸しをするというところからはみ出さないで、自分の目の届く範囲のことをやっていきたいと思っています。会社を表現する数字は、一般的には売上とか従業員数などありますが、わたしは会社の歴史=社歴を大事にしたいと思っています。これは信頼関係を重ねることであり、お金では買えないものなんです。社員にも自分への戒めも含めて「社歴を重ねるんだ」といつも言っています。
住所 | 岐阜県大垣市本今5丁目141番地 |
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URL | http://www.nisimino.com/daimarumatsusita/ |
創業 | 明治29年(1896年) |
大丸松下食品様は、大垣の地にて食品にこだわり続け、2014年で創業118年という社歴を重ねて来られました。松下社長の「自分がしっかりとバトンを受け継いで、次に渡すために一時的に預かっている」という言葉に、取材者の一人であるわたしも家を継いだものとして、その責任感や覚悟に共感しました。大手との違いの追求や、積極的な品質管理への取り組みのお話から事業の難しさ・厳しさを教えられました。その一方で、個人面談や工場見学でのやりとりから社長の従業員の方々に対する温もりを感じました。